シャイターンの堝
<堝07 title="処四姦徹の5">
~01
典雅は、仰向けに倒れ込んで、荒い息を繰り返していた。
ひどく疲れた。跳ね上がった心拍がいつまでも収まらず、腕一本持ち上げるのさえ億劫。
いつまで経っても身を起こす気にならず、ぼんやりと壁際の鏡台に映る自分自身を眺める。『彼』は、精根尽き果てたような表情で、目を開けている事さえ大儀そうな様子に見えた。
──ふと、考えてみれば。
(…ええっと。まずシルフィと一回ヤったろ。
で2、3、4………すげえ。今日はもう4回か…
道理で身体が重いわけだ…)
いつの間にかすり寄ってきた少女の、栗色の髪に何となく触れながら、重々しく吐息をはく。感嘆と呆れと疲労の入り交じった、ため息。認識すれば、さらに疲労感が増し、一層身を起こす気力が失せる。
もはや、修学旅行の最中に抜け出している事も、その原因たる事件も、何もかもどうでも良い心地だ。とにかく疲れたので寝入ってしまいたい。
うつらうつらしている典雅の脇の所が、くすぐったいと思えば。奈美がごそごそと、何かやっている。
どうやら、典雅に腕枕をして欲しいらしい。身をよじって少年のさほど太くもない腕の上に頭を乗せると、彼女は喜色で表情をゆるませる。
幸せそうにほおずりする動作など、いつか見た、人なつっこい子猫を彷彿させる。
(……そう言えば、あの時の野良。 まだ生きてるのかな…?)
とりとめの無い思考が更に現実をぼかし、夢と混じり出す。添い寝する少女の体温の暖かさも、それを手伝う。するすると、自然とまぶたが重くなって…
──と、不意に。
股間の冷たい感触に、目を覚まされた。
見れば、小さくなったペニスに、舌をつけている隷の姿。
「…おい」
「──ん? 何ぞ有りましたかえ?」
見上げるシルフィには、相変わらず邪気の欠片も見えない。
「『なんぞ』じゃない。人が目を離した隙に、一体何をやってるんだよ?」
気持ちよく微睡んでいた最中を邪魔され、やや不機嫌な主の声もどこ吹く風。
見たままを言えば、フェラチオをしている金髪碧眼の女は、明朗に一言。
「判定じゃ」
「……は? 判定?」
言われて脳裏に浮かんだのは、剣道か何かの試合で紅白手旗を上げ下げしている審判の姿。
意味が通じず、首を傾げる主へシルフィは補足の言葉を告げる。
「昨夜の、ご学友の言でのう――こう、一気に飲み干した入れ物を、逆さに振ってのう?
一滴でも落ちれば『残っているからもう一杯っ』とか何とか…」
たとえ話の解りづらさにしばし頭を悩ます。
「……酒飲みの話、か?」
「うむ。妾を酔わせて何やらいかがわしい事を目論んでおったようで在ったから、残らず返り討ちぢゃっ」
「……………」
相変わらず、得意げに大きすぎる程の胸を反らす金髪娘に、呆れる典雅。
「──って、ちょっと待てよ…」
ふと根本的な事実に気付くと、自然と意識が明瞭化していく。
「じゃあ、何か?
アイツら昨日の夜、お前と飲み交わしておきながら、今日初顔合わせみたいな顔してたのか?」
――そもそもの元を正せば。
修学旅行の最中にこうして単独行動をする羽目になった原因は、同室の連中が知らない女を連れ込んでいると大騒ぎをした事であり。そのせいで友人らの昨夜の飲酒喫煙の確固たる証拠を押さえられた事だ。お陰で朝食抜きで1時間近く正座させられ、こっぴどく叱られ、ビンタまでされたのだ。
さらに後先考えない隷の暴走で、教師への暴力沙汰という濡れ衣まで着せられているのだろう。
(いや、俺は絶対悪くない)
そう確信して疑わない典雅は、
「──ったく、あのバカども…っ
アルコールで脳みそ溶けてるんじゃないのか?」
怒りを覚えるよりも、周りの馬鹿さ加減に呆れ増大で、眉間のしわに指を当てた。
「いや。単に妾を知人と間違えているようであったが?
何と云うたか…アベ…?」
「アベ…? ………安倍、夏美か?」
典雅の頭に浮かんだのは、脱色した髪と、焼けた肌に、鋭い目つきの同級生。親・教師の言う事など一つも聞かなく、棘のある言動で周りに人を寄せ付けない。そんな雰囲気の持ち主。
別段シルフィと似ている訳でも無いので、もはや肌と髪の色でしか人を判断できない程に泥酔していたのだろう。
ちなみにその安倍 夏美。全く、集団行動など好む人種には見えないのだが、実に不可思議な事に髪を染め直してまで修学旅行に参加している。彼女とは正反対の性質の親友が、苦心して諭したという噂だった。
――これを機会に、真人間に更生させてあげよう!
とか、悪友どもが密談していたような覚えもある。
と言うより、むしろ。そんな話をしていたからこそ、周りに関心のない典雅が他クラスの、しかも滅多に学校に顔を出さない生徒の名前を覚えているのだが。
とにかく悪友どもが似合わぬ他人へのいたわりとかを持ち出しているのはもちろん、安倍 夏美は尖った性質で人当たりは悪いものの、なかなかの美形であり。男どもの、旅は女を大胆にする、と言う呆れた下心が有るに他ならない。
『世に擦れた乙女の純情』とか何とか言いつつ、みっともなくよだれを垂らす馬鹿そのものの姿。是非、悪友の表面に騙されている女性に見せてやりたい、というのがその時の典雅の感想。
「やっぱり。アルコールでただでさえ腐った脳みそが発酵してたんだな、きっと」
と、重々ため息を吐く主にはお構いなく、隷は舌と唇での奉仕行為を続ける。
典雅は押しのけようかとも思ったが、しかし、それさえする気が起きず、結局はされるままに任せた。
「――うむ、立ったぞえ?
やはり、まだ満足されておられぬようじゃな?」
無理矢理に勃起させたペニスを握るシルフィは、とても楽しげ。彼女の主は疲れの中に呆れの混じった表情なのだが、それは気にも留めずに下半身の反応を本音と認識している。
「さて典雅様、どうなさいますかえ。
もう一度、その娘に相手を?」
典雅は、シルフィが見上げる視線に従い、添い寝する少女──奈美に首を向けた。
すると、少女は典雅の目線に気付き、慌てて目を伏せ、ほおを染める。金髪の女性の奉仕行為でいとも簡単に復活する異性に、興味津々と見入っていたのだ。
「それとも他の娘に?」
ちらり、と振り向く方には、バスタオルを巻き付けただけの姿で所在なく立ちつくす、のりこと美佐の2人。
――成熟と清純さを兼ね備えた、シスターにするか。
――引き締まった身体の、気丈で健気な少女にするか。
――小柄だが発育の良く柔らかな、もう一人の少女にするか。
それぞれの違った『具合』を思い返すと、思わず迷ってしまう。と、結局は乗り気になった典雅。
彼のそれは、同年代の女性に縁の薄い男子が見れば、何とも贅沢極まりない状況ではあるのだが、少年はあまり頓着の様子もない。
奈美の頭の下からそっと腕を抜いて、大儀そうに身を起こすと、むしろどうでもよさそうな口振りで、
「ま、いいや。誰でも良いけど…もう一回ヤりたい人って、居る?」
そう言われて『ハイ』と挙手できるような女性もそういない。当然、女3人は気まずく顔を見合わせるのみ。
しかし、女心なんて物が欠片も解っていない少年は、軽く肩をすくめてあっさり諦める。
「じゃあ、仕方ない。
お前…――と、シルフィって呼んで欲しいんだったか…責任取って相手しろよ?」
女3人は、初めての痛みで気後れしているか、好きでもない男に二度も抱かれる気がない。という辺りだと判断し、典雅は絶対服従の存在に視線を戻す。
小麦色の細く鋭い指の先で、そそり立ったペニスをくすぐるように絶え間なく刺激を与え続けながら、シルフィは、
「宜しいのかえ?
妾をならば、これからも何時でも抱く事など叶いましょうに」
「そんな事言ってもなあ…
嫌がる相手に無理矢理っていうのも、なんだか――」
「――あ、あのっ!」
典雅の気まずそうな台詞の最中に、割り込んできたのはのりこの声。その声の大きさと唐突さに驚いて、主従が振り向く。と、うら若いシスターは、逆に身を引いて、恥じ入るようにうつむいた。
「え…えっと…あの…その…」
頬を染めて言いどもり、太股のあたりを際どく隠すピンクのバスタオルの端を握りしめ、逡巡のような仕草を繰り返している。
「えっと…何?…のりこ、さん?」
放っておけば何時までもうつむいていそうな年上の女性へ、典雅が出来るだけ優しく聞こえるように、かつこんな名前だったはずだと思い半疑問形ながら、問いかける。
のりこは、意を決して顔を上げ、しかし消え入るような声で告げた。
「あ、あの…私がお相手、しましょうか…?」
「…え?」
意外な申し出に、典雅が思わず問い返すと、彼女は一層顔を朱に染め焦った口調で、もごもごと続ける。
「――いえ、その、私そんなに辛くなかったですし、あ、いや、こういうのって結構個人差が有るって聞きましたから、その、私は平気ですしたし…だから、えっと…その…私で、お嫌でなければ、なんですが…?」
両手の指を絡ますようにせわしなく動かしながら、恐る恐ると少年の顔を伺う。典雅は、ひとうなり。
彼女の身体の包容感を思い返し。のりこの嬌声とペニスを包み込んだヴァギナと、荒々しい動きを受け止めた太股の柔らかさを思い出し。ひたすら落ち着きのないシスターに、向き直って首肯。
「それじゃ、お相手願いましょうか」
何だか、申し込まれた試合でも受けるような、妙で場違いな言い方ではあったが。のりこは、小さく安堵の笑み。
それを何か勘違いした女心の解らない輩は、すねたように顔をしかめる。
「……笑うなって。そりゃ、雰囲気ないだろうけど…俺、そんなの無理だし…」
頭をかいて、気まずそうに言い訳する少年の姿に。
今度は、正真正銘、抑えきれずに漏れる、吐息のような笑いがこみ上げた。
~02
ひとしきり笑った後。
のりこは、微笑みのままベッドの上に腰を下ろした。
「それじゃあ、お手柔らかにお願いしますね?」
悪戯っぽい表情で、三つ指突いてお辞儀をする彼女に、典雅は渋面と苦笑の中間でほおをかく。
「あのなぁ…。…あんまりいじめないでくれ」
「ふふ。優しくしてくれるのなら、いじめないでおいてあげますよ?」
口元に手をやって笑うのりこに、典雅は少し困った顔をした後、手を伸ばしてほおにふれる。
「ふふ…
――あ、んん…っ」
のりこの吐息が収まるのを待って、軽く口付け。目を閉じて迎えた女は、一度離し上唇をついばむようにもう一度キス。典雅は口吻の方はされるままに任せながら、彼女の身を包むバスタオルをはぎ取り、抱き寄せながら柔らかい肌に手を這わせる。
「…ん…」
抗議か反応か、解りづらい声。しかし遠慮もなくまさぐる。腰に回していた片手をそのまま下ろして安産型のヒップを撫で、もう片手は脇腹を沿って胸へ。まさぐる手に返ってくるシスターの肌の感触は、
彼女の生徒達とは確かに違う。マシュマロに似た柔らかさが、触れる手を受け止め包み込むような感触。
これが成熟した大人の肉体、と言う物か。未成熟な少女の肌を知った今になって、典雅は感心しきった。
のりこは自分の生徒くらいの少年の、遠慮のない愛撫に時々びくりと身を震わせる。しかし、目を伏せたまま唇を合わせる奉仕は休めず、さらには既に反り返った男根を手探りで探し出した。細く柔らかい手が、そっと壊れ物に触れるような優しさで握る。それは、先刻彼女
の処女を情け容赦なく奪った代物だというのに、撫でる手つきはむしろ愛おしげ。
「うお…っ」
「――あ。…ごめんなさい。痛かったです?」
先端を指でこするとぴくりと跳ねたペニスに、シスターは驚いて手を一旦離した。
「あ、いや。思いがけない反撃だったんで…」
抱き合ったままのせいで、顔の見えない典雅の気まずそうな声に、のりこは微笑。
「だって、触り方がイヤらしかったから。お仕置きです」
そう言いながら、少年の尻に指先で円を描く。典雅が、さわさわと這うくすぐったさに間抜けな声を上げ、尻を強張らせると、彼女はようやく気が済んだようでお仕置きを止めてくれた。
「触り方が嫌だった?
結構、気を使ったつもりだったんだけど…」
「ふふ、冗談ですよ。
――所で。あの…、『手』より『口』の方がお好みですか?」
のりこは一旦身を離し、彼の股間に再度手を伸ばしつつ、少し潤んだ瞳で尋ねる。その妙に色っぽい表情に、典雅のペニスはまるで喉を鳴らすかのように脈動。彼女はそれを肯定と受け取って、中腰状態のままの彼の前に腰を下ろし、硬直した付け根にそっと両手を添える。最初は軽く舌を這わせ、何度か躊躇するように先端に口を付けては離し、やがて思い切ったようにゆっくり口の中へと収めていく。
「うう…」
少年は、性器を半ばまで温かく柔らかい感触で包まれ、快楽にうめく。その様子を上目づかいに伺いながら、のりこは軽く動かし始めた。あくまで軽く、ゆったりと、先端の部分から半ばまでをストローク。その上、裏筋を舌の上で転がすように愛撫。
「うあっ…すげえ…」
少年が声をうわずらせ、太股の筋肉を引きつらせて悦んでみせるから、一層彼女の奉仕に熱が入っていく。おかげで、典雅の吐息にさらなる熱がこもり、シスターの口に優しくくわえられた部位は、痛い程に膨張しきっている。
「もうそろそろ、よろしいでしょうか?」
のりこは口を離し、頃合いを尋ねる。それに応えた声は彼ではなく、その隷の
方。
「うむ。充分であろう。そなたの準備が整っておるのならば」
「それは、その…大丈夫ですけど…」
シルフィの問いかけに、気恥ずかしげにこくりと肯き。しばし何か逡巡してから、のりこは、おずおずとベッドに横たわる。そして、
「…ああ…っ」
と、羞恥で赤く染まった顔を両手で隠しつつ、はしたない程に大きく脚を開き、
「――ど、どうぞ、典雅さん…わ、私の中へいらしてください…」
消え入るような声で、あからさまに誘う言葉を吐く。
どうやらシルフィの手本を全く真に受けているらしい、純真なシスターの痴態に。
典雅は思いがけず喉を鳴らした。
</堝07>
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